職業性(クランプ)ジストニアについて知っていますか?
字を書くときに自分の意志とは関係なく指に力が入り過ぎたり、手首が反り返ったり、また手がふるえてしまって、書字が出来なくなってしまう病気があります。これは「書痙」と言います。この「書痙」は、大量の字を書く事務系の職業の人に多くみられ、字を書く以外の動作には何ら支障がありません。ですから、原因は精神的ストレスと考えられてきました。しかし、最近では、「書痙」は脳の機能障害によって生じる異常な姿勢と筋肉の過剰な緊張によるものであることが明らかにされました。こういう状態を医学用語でジストニアと言います。
同じ動作や姿勢を過剰に反復してしまうことによって、異常な運動パターンを獲得してしまうためだろうと考えられています。言い換えれば、本来ありえない動作を誤って身体が覚えてしまう、つまり学習してしまうわけです。このジストニアという症状は、字を書く人だけに出現するわけではなく、熟練を要する複雑な運動を繰り返し過ぎると出現してきます。
例えば、ワープロをタイプする人では、キーボードをタッチする時に指が曲がってたり手がねじれます(タイピストクランプ)。類似の症状は、ピアニスト、バイオリニスト、管楽器奏者などプロの音楽家にみられることも多く、楽器を演奏するときだけに指が曲がって伸びなくなったり突っ張ってしまったりします(音楽家クランプ、器楽演奏家クランプ)。特に、小指やくすり指など筋力が弱い指や、複雑な運動を要求される指に症状がでます。だいたい器楽演奏家の100人に一人ぐらいの割合で起こっているのでは?とも考えられています。
書痙やタイピストクランプ、演奏者クランプなど、動作を反復すればするほどジストニア症状は悪化してしまいますから、仕事をすればするほど、また練習をすればするほど、逆に症状が悪化するという悪循環に陥ります。
ジストニアは仕事のプロにとっては人生設計さえ狂わせてしまう問題です。
このジストニアは医学的にも難しい症状で、頸椎の病気や心因性の病気、腱鞘炎、ストレス性障害などと診断されている場合も多くあります。ジストニアは「神経内科」専門医でないとなかなか正しく診断できないことが多い難しい症状です。
局所性ジストニアに関しては、ボトックスは保険適用になりません。治療方法が定まっていない難しい症状ですが、「局所麻酔薬によるブロック」や「手指の感覚と運動の関係を再学習するリハビリ (sensory-motor retuning)」 などを根気よく行っていく治療方法などが模索され一定の効果をあげています。