本態性振戦は最もよくある「ふるえ」の病気です。ここではQ&A方式で要点をまとめてみました。ご参考にして下さい。
Q1. 本態性振戦って、どういう病気ですか?
Q2. 本態性って、どういう意味ですか?
Q3. 本態性振戦の症状は?
Q4. 生命に関わる怖い病気ですか?
Q5. 放っておいても大丈夫ですか?
Q6. どういった治療がありますか?
Q7. 遺伝しますか?
Q8. アルコールを飲むと「ふるえ」が楽になるのですけれど?
Q9. 注意することは何ですか?
Q1.本態性振戦って、どういう病気ですか?
原因となる病気がないのに「ふるえ」だけがあるというものです。「ふるえ」の原因として最も多いもので、100人に1人から2人(1〜2%)は本態性振戦と言われています。
「ふるえ」で有名な病気として、パーキンソン病が知られていますが、実際には「本態性振戦」の方が多いです。
Q2.本態性?って、どういう意味ですか?
医学用語で原因不明という意味です(ちなみに、「本態性という言葉は、高血圧にも使われています。原因がはっきりせず、体質で高血圧になる場合、本態性高血圧と言われます。多くの高血圧が本態性です」。本態性振戦は、「ふるえ」の病気ですが、「ふるえ」以外には悪いところはありません。つまり、「ふるえ」の体質と言えるでしょう。。
Q3.本態性振戦の症状は?
* 手のふるえ(字を書こうとするとペンを持つ手がふるえてしまう。はしを持つ手がふるえてつかめない。乾杯する時、ビールをつぐ時など水の入ったコップを持つとふるえる。じっとしているとふるえない。)
* 声のふるえ(特に人前で話すときに声がふるえてしまう。)
* 頭のふるえ(頭や頚が細かくふるえる。)
ふるえは、人前であったり、緊張したり、ストレスがあると特にひどくなりますが、それ以外には困った症状がありません
Q4. 生命に関わる怖い病気ですか?
生命に影響はありません。脳にも異常はありません。認知症になったり、寝たきりにもなりません。「ふるえ」だけが症状です。動作がにぶくなったり、遅くなったり、歩く時にふらついたり、することもありません。
しかし、「ふるえ」がひどくなると、日常生活に差しつかえます。「ふるえ」は人前でひどくなるので、精神的プレッシャーを感じて、悩みを抱えるようになることもあります。
Q5. 放っておいても大丈夫ですか?
日常生活に問題がなければ様子をみていて大丈夫です。症状の程度も千差万別で、軽い人から重い人までさまざまです。しかし、「ふるえ」のために生活に支障がある場合や、ふるえに悩みを感じる場合には、治療を行ないます。
Q6. 治療法がありますか?
治療薬としては、交感神経遮断薬(アルマール)という薬が有効です。しかし、心臓が悪い人や、低血圧の人、喘息がある人、高齢者では副作用が出るので使えません。その他にも、数種類のくすりが有効です。いずれの薬も眠気やふらつき、血液や肝臓の障害など副作用が出ることがあります。したがって、治療効果の評価とくすりの量の調節が必要です(症状が高度の場合には脳の手術が行なわれる場合がありますが、これに関しては慎重な医学的判断が必要です)。交感神経遮断薬(βブロッカー)は、高齢者、心臓の悪い人、喘息のある人では飲めません。
Q7. 遺伝しますか?
欧米の統計では、約4割の患者さんで、両親や親戚の方にも同様の症状があると言われています。高血圧や糖尿病と同じように、体質が受け継がれると考えて下さい。ふるえの体質は遺伝することがあります。
Q8. アルコールを飲むと「ふるえ」が楽になる?
本態性振戦では、少量のアルコールを飲むと、ふるえが軽くなることがあります。しかし、これはアルコール依存症「アルコール中毒」とは関係ありません。アルコール依存症でも、手がふるえたり、酒が切れるとふるえがひどくなることがありますが、本態性振戦とは全く関係のないものです。アルコール中毒とは関係ありません。
Q9. 注意することは何ですか?
何度も申し上げますが、「本態性振戦」は、あくまで良性の病気(体質)ですので、上手につきあっていく必要があります。過剰に深刻になる必要はありません。しかし、「ふるえ」のために日常生活に支障がでたり、職業等によっては社会生活に支障がでる場合もあります。人前で「ふるえ」がひどくなるので悩んでおられる方も多いです。
まず、「本態性振戦」であると正しい診断を受けることが大切です。その上で、どう治療・対処するのかを医師と相談していただきたいと思います。
クリニックからのメッセージ
ふるえの病気にはさまざまな原因があります。思い込みや素人判断は危険です。別の病気が潜んでいる可能性があるからです。また、一見すると「本態性振戦」と見分けがつきにくい病気があることも事実です。特に、以下の病状では「ふるえ」が出ることがあり注意が必要です。これらの病気には、見逃されていると深刻な状態になる病気もあります。
パーキンソン病(パーキンソン症候群含む)、脳梗塞、脳出血、多発性硬化症、ウイルソン病(身体に銅がたまる病気)などの脳の病気。これらの病気では、「ふるえ」が目立つ場合がありますが、診察すると「ふるえ」以外の症状が見つかります。
字を書くときだけに「ふるえ」が出る場合には、書痙(しょけい)と呼ばれる病気のことがあります。これは本態性振戦とは別の病気です。
甲状腺機能亢進症(バセドー病、橋本病など)。これは甲状腺というホルモンの病気ですが、初期の症状として、手のふるえがおこります。
くすりの副作用(喘息のくすり、精神安定剤など)でふるえることも多いので要注意です。
「ふるえ」でお困りの方は、専門家(神経内科専門医)の診察を受けることをおすすめします。「ふるえ」の病気は神経内科医が診察すると区別できます。